日本人が一生のうちに、がんと診断される確率は2人に1人と言われています。そのがん治療を根本から変える可能性のある画期的な治療薬が登場しました。ウイルスががん細胞を攻撃する驚きの効果。様々な応用も期待されています。
患者の男性:
失礼します。よろしくお願いします。
診察室に入る50代の男性は、脳のがん、悪性度の高い脳腫瘍を患っています。
定期的に通院して脳のMRI画像を撮り、がんが進行していないかをチェックします。
東京大学医科学研究所 藤堂具紀 教授:
悪くなってない。腫瘍が小さくなったままです。腫瘍は今のところおとなしくしているということですね。
男性は2016年に脳腫瘍を切除する手術を受けましたが、翌年の2017年に再発。
東京大学医科学研究所の藤堂具紀教授が行った新たな治療薬「デリタクト注」の臨床試験に参加しました。
その驚きの効果が分かる画像があります。
治療前(2017年1月)と治療後(2021年4月)のMRI画像を比べてみると…。
脳の中に白く染み出ていた腫瘍の範囲が、治療後には狭くなったことが分かります。
がんが小さくなったのです。
藤堂教授:
再発した後どんな治療をしたにしても、(がんが)4年間じっとしてるということは通常はない。今までの治療では見ない経過。
悪性度の高い脳腫瘍では、手術など標準的な治療をした後に再発した場合、▼1年後の生存率が約15%とされています。
臨床試験でデリタクト注を使った人は、▼1年後の生存率が92.3%という結果でした。
この治療薬の販売が11月から始まっています。特徴は、“ウイルスでがん細胞を破壊する”というこれまでにないものです。
藤堂教授:
がん細胞だけで増えるウイルスを用いたがんの新しい治療法です。遺伝子組み換えを行って、ウイルス自体を設計して人工的に作るという発想です。
唇などに水ぶくれができるヘルペスウイルス。その遺伝子を組み換えて、“特殊なウイルス”を作りました。
ウイルスを投与すると、▼がん細胞の中でウイルスが増殖し、がん細胞を破壊。さらに▼周りのがん細胞に感染して同じことが繰り返されます。
一方で、▼正常な細胞ではウイルスは増えず、影響を与えることはありません。
ウイルスが、がんを叩く様子です。
星形の細胞は悪性脳腫瘍の細胞で、ウイルスに感染すると赤く光ります。
がん細胞は次々とウイルスに感染し…。
藤堂教授:
パンと(はじけるように)なりましたね。
最後は、破裂してがん細胞が死滅します。
記者:
今のはどういう状態ですか?
藤堂教授:
恐らくウイルスが周りに散らばっていく時だと思うのですけれどね。
▼ウイルスが直接がん細胞を破壊するのが1段階目の効果です。
さらに2段階目として、▼がんに対する「免疫」を引き起こすという効果があります。
がん細胞を破壊したウイルスは、体内の免疫によって排除されます。
このとき免疫はがん細胞を「異物」として認識し、がん細胞自体を排除しようとする働きが高まるのです。
藤堂教授:
ウイルスがなくなった後でも免疫が、がん細胞を叩き続けるということが起きます。
必ずしもウイルスを投与した腫瘍に限らず、遠く離れた転移したような場所でも作用する。
脳腫瘍が再発し、臨床試験に参加した男性。
ウイルス治療によって、がんの進行が止まりました。
来年は、次男が成人式を迎える予定です。
脳腫瘍の再発後に臨床試験に参加した50代男性:
非常に希望だと思います。
こういうことが可能になったことを知らしめていただいて、困っている方、悩んでいる方、一人でも多く耳に届けば私は幸いです。
このウイルス治療薬「デリタクト注」は、放射線や抗ガン剤といった従来の治療に比べ、副作用が少ないというメリットも。
さらに期待されるのが、さまざまな臓器にできるがんへの応用です。
藤堂教授:
培養細胞ですとか動物実験なんかを使った研究では、もうほぼ全ての固形がんに対して同じようなメカニズムで同じように効果を出すことが分かっています。
上手にウイルス療法を組み合わせていくことによって、がんの治療が根本的に変わってくるんじゃないかと思っています。
「デリタクト注」は、臨床試験での症例数が限られていることから、7年以内に有効性や安全性を再確認することになっています。(18日23:30)
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